マイスターに聞いてみよう
No.7
旋盤 ものづくりマイスター
小澤光範さん
楽しく学び、手で覚える。
熟練マイスターが
若手に伝える、生きた技術

2025年5月16日(金曜日)、長野県の優秀技能者表彰式が行われました。今回表彰されたのは、普通旋盤や数値制御旋盤、フライス盤といった工作機械の技能検定で、見事な成績を収めた4名の技術者たち。彼らの技術力の背景には、ものづくりマイスターとして指導にあたった小澤光範さんの存在がありました。
今回、小澤さんと受講生たちに、どのような指導が行われてきたのか、そしてその根底にある想いについて、お話を伺いました。
■ 表彰された皆さん
・普通旋盤 1位(知事賞) 西巻 裕さん(株式会社五味工業)
・普通旋盤 3位(職業能力開発協会長賞) 八田 亮さん(株式会社五味工業)
・数値制御旋盤 2位(職業能力開発協会長賞) 鎌倉 司瑳さん(株式会社多摩川マイクロテップ)
・フライス盤 1位(知事賞) 寺尾 翼さん(株式会社五味工業)
ただの検定合格じゃ意味がないんです。実務に活きる技術を教えたい
今回の講座は、全10回。週1回、3時間ずつの指導を行ったのが、ものづくりマイスターの小澤光範さん。現在73歳ながら、今も現場からの信頼は絶大です。
「この子たちはみんな忙しい中、時間を作ってくれてるからね。僕も全力で向き合いますよ」と小澤さんは笑います。
指導内容は、受講生のレベルや経験に応じて毎回カスタマイズ。実技だけでなく、必要ならNCプログラムの資料もその都度準備していたそうです。
学科と実技の比率はほぼ半々。「検定に受かるための知識」ではなく、「現場で活かせる知識と技能」を身につけてほしいというのが、小澤さんの一貫した方針でした。
「楽しさ」とともに身につける活きた技術
受講生からは、小澤先生の指導について「楽しい」という声が多く寄せられています。先生ご自身も「厳しくしすぎないこと」を心がけていたそうで、時には趣味の話なども交えながら、リラックスした雰囲気づくりを大切にしていたと語ります。
「楽しく学ぶって、すごく大事なんですよ」と小澤さん。
「怖い顔して怒鳴っても、人って覚えないんです。むしろ雑談したり、趣味の話をしたりしながら、その中に技術の話を織り交ぜる。そういうのが記憶に残るんです」
小澤先生は、「単に自分のやり方を教え込むのではなく、受講生自身が持っている力を引き出すこと」を重視しています。自ら考え、将来的には人に教える側にも立てるような人材の育成を目指しています。
技能検定の合格はあくまで通過点であり、最終的な目標は、現場で活かせる技術を確実に身につけること。受講生が実務に活かせる力を育てることが、先生の一貫した方針です。
近年、工作機械は高性能化が進み、数値を入力するだけで加工が可能な時代になりました。しかし、小澤先生はあえて「アナログな感覚」を重視します。実際、受講生たちは機械を操った際に伝わる「手の感触」や「加工音の違い」といった身体感覚を通じて、機械の状態を理解できるようになったと実感しています。こうした“体で覚える技術”こそが、まさに生きた技術なのです。
次の世代へ、技術をつなぐために。
「もう73歳ですけど、まだまだ元気です」と小澤さん。口コミや紹介で指導の依頼が絶えず、ほとんど休みのない毎日だといいます。
それでも、小澤さんは迷いなくこう話してくれました。
「持っているものは、全部伝えていきたい。今の中堅世代がしっかり受け継いで、次の若い人たちに教えられるようになってくれたら、僕の役目も果たせるかなって」
高性能な機械、便利なツールが次々と登場する今だからこそ、人の“手”から伝わる技術や感覚が、より大きな意味を持っています。ものづくりの現場では、いま、そうした「人から人へ」の技術の継承が改めて求められているのです。
小澤先生と受講生の記念写真
表彰式の様子