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長年ものづくりの世界に携わってきた名匠に、
ものづくりの魅力やこだわりを語っていただくスペシャルインタビュー。
高山村でワイン醸造を手がける「信州たかやまワイナリー」の鷹野永一さんは、
高山村を美しいワインの産地として三世代まで引き継ぐことに情熱を注ぎ、
ワイン醸造を行っています。
ワインづくりの魅力とともに、技術伝承にかける思いを語っていただきました。

3世代先まで見据えたワイン醸造の未来

「信州たかやまワイナリー」は、高山村で栽培した高品質なワイン用ぶどうを村内でワインにし、多くの人に飲んでもらいたいという、この地に集まったワイン用ぶどう農家の情熱が形になった施設です。ただワインを醸造するだけの施設ではなく、ここ高山村の地域おこし・地方創生という使命を持った施設でもあるのです。
高山村でワイン用ぶどうの栽培が始まったのは1996年。当時は大手ワイナリーの契約栽培としてシャルドネ(白ワイン用の代表的な品種)を育てていました。その品質のよさが評価されて、2004年には国産ワインコンクールで金賞を受賞しました。この地でワイン用ぶどうを栽培したいという農家が徐々に増えていき、2006年には生産者が集う「高山村ワインぶどう研究会」が発足しました。ここではぶどう栽培に関する研究に加え、ワインについての研修会や村内外へのPRなど広範な活動を行ってきました。ワイン用ぶどうの良質な産地にするだけでなく、ワインの産地としての魅力を高めるための取り組みが始まったのです。

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高低差と地形に多様性がある高山村。「イタリア南部からドイツの北までヨーロッパを丸ごとカバーするほどの多様さ」と鷹野さん

よいワインの産地となるためには、1軒のワイナリーが良質なワインをつくっているだけでは不十分です。高品質なワインを醸造するワイナリーが小さくてもいいので複数あることがよいワイン産地の条件だといわれています。そのための中核となる施設として誕生したのがこの「信州たかやまワイナリー」です。良質なワインを醸造するのはもちろん、人材を養成し後進を育成する機能を持っています。本当に一流といわれるワイン産地になるためには、実は200年ほどかかるといわれています。三世代分もの長い時間です。ぶどうの栽培には時間がかかりますし、年月をかけて熟成を深めるという発想があるからです。三世代先のことまで意識して、技術やノウハウを高め、伝えていく。ここでは、そんな意識を持ってワインを醸造しているのです。

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数年前に高山村に移住してきた若手栽培家から、収穫したてのワイン用ぶどう(ソーヴィニヨン・ブラン)が届きました。高山村を美しいワインの産地にするという思いが引き継がれています

ワイン産地を育成したいという思い

私はもともとは大手ワインメーカーの社員でした。入社当初はなぜか情報システム系の部署に配属されて、あまりにもワイン醸造の現場からはかけ離れた職種だったのでちょっとびっくりしたものです(笑)。でもいざやってみると、醸造から販売、物流など、会社の業務全体を俯瞰して見なければできない仕事でした。ワイン会社に関わるすべての業務を見ることができたので、とても貴重な経験になりました。
数年して当初の希望であったワインづくりの現場に異動させていただいたのですが、現場で私にできることなんてほとんどありませんでした。それでもやれることというのは、探せば何かしらあるものです。自分でも力になれる業務を必死で探し、最初はびん詰めやラベリングなどを担当していました。そのうち、オペレーター、資材管理、醸造計画と、どんどんやれること、任されることが広がっていきました。自分でもワイン醸造に関する勉強を積んでいき、異動して5年目にはワイン醸造の親方になることができました。
どのようなワインにしたいのか。そのためにはどんなぶどうを使うのか。そのぶどうを運ぶにはどうしたらいいか。どんな設備が必要なのか。そういうことをすべて計画して、ワインというひとつの形にするリーダーです。日本酒でいう杜氏のような立場です。

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ワインというひとつの形になるまで。その過程には、それぞれのものづくりの現場で尽力する人の姿があります

先ほど、1996年に高山村で最初のワイン用ぶどうの契約栽培が始まったと言いましたが、その仕込みを担当していたのがメーカー勤務時代の私なんです。この地のワイン用ぶどうの歴史をいちばん最初から見ていたんですね。当時、高山村がワイン産地になる夢を農家の方たちと語り合ったのを今でも覚えています。
私は次第に、大手ワインメーカーでワイン醸造に携わるなかで、より大きな視点で、ワインだけではなくワイン産地をつくっていくことへの興味が大きくなっていきました。とはいうものの、自分がその地に腰を据えて一からワイン産地の育成をお手伝いしたいと思えるような場所にはまだ巡りあえていませんでした。でも、高山村のワイン用ぶどう栽培を長く見守っていくなかで、この地なら日本を代表するワイン産地になることができる。そんな確信を持つようになりました。
自然環境がワイン用ぶどうの栽培に適していることはもちろんですが、それよりも、高山村の「人」の素晴らしさが、この地のかけがえのない財産だと思ったのです。そして「信州たかやまワイナリー」に設立から関わるため、高山村への移住を決めたのでした。

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素晴らしい高山村の人たちとなら、日本を代表するワイン産地を築いていける。その確信を胸に、ワインづくりに打ち込み続ける鷹野さん

「人」がぶどうを育て、ワインを育む

ワイン産地づくりの第一歩として、まず農業関係のインフラを整備することから始めました。気象観測機を導入し、毎日の気温や湿度、風向などをデータとして保存・活用できるようにしたのです。このデータは栽培に役に立つだけでなく、後世に残る大きな財産になります。ある年に造られたワインがどのような気象条件で育ったぶどうから造られたのかがわかることは、将来のぶどう栽培において大きなメリットとなります。これからの農業では、ICTの活用がとても重要になってくると考えています。
またワイン醸造施設内には、虫をモニタリングする機器を設置しています。衛生管理のため虫を駆除するのはもちろんですが、それだけでは不十分です。虫が外部から侵入したのならどういう気象条件の時に気を付ければいいのか。内部で発生したのなら、施設内のどこを管理すればいいのか。虫の種類や数のデータから、そういうことを分析するのです。

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データ活用の一方、「会話する」という意識でぶどうと接しないと感じられないものがあるというのも真実なんです

また一方で、高山村のぶどうづくりの魅力は、何といっても「人」にあります。人がぶどうを育て、ワインを育むのです。ワインの品質の良さも悪さも、すべては産地にいる自分たちの中にあると言ってもいいでしょう。私にとっていいワインとは、バランスがいいということです。味や個性の面で何かに突出したワインは派手ではありますが、バランスのいいワインにはかないません。バランスのいいワインとは、味のバランスがいいだけでなく、食事とのバランスであったり、ワインと地域との関わりであったり、そういった大きな視点から見ても、“どこにも無理のないバランスで醸造されている”ということです。
そのためには「いいもの・いい人・いい飲み手」が大事だと、私はよく言っています。「いいもの」は、国際的に評価される品質のもの。「いい人」は、それをつくる志の高いつくり手。そして「いい飲み手」とは、そのワイン・ワイナリーを厳しくも温かく見守る人のことです。この3つが交わり、相乗効果が生まれることで、地域で育まれるワインが地域の文化の象徴のようなものになり、よいワイン産地になっていくのだと考えています。
ワインをつくるだけではなく、ワインの魅力や可能性を広げ、高山村を世界に誇れるワイン産地にすること。これがこのワイナリーの使命だと考えています。

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鷹野永一(たかの えいいち)
株式会社 信州たかやまワイナリー 取締役執行役員・醸造責任者。上高井郡高山村在住。山梨大学工学部発酵生産学科を卒業後、大手ワインメーカーに入社。高山村のワイン専門職員を経て、信州たかやまワイナリーに着任。

株式会社 信州たかやまワイナリー
住所:長野県上高井郡高山村高井裏原7926
電話:026-214-8726
URL:https://www.shinshu-takayama.wine/
ワイン醸造のほか、ショップを併設

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