軽井沢町に本店があり、長野県内に6店舗を展開する
「S・K花企画」の代表取締役である金澤忍さんは
2024年の技能グランプリで内閣総理大臣賞を受賞しました。
「花一輪から、豊かな心を育む」ことを理念に掲げ
フローリストとしての技を磨き続けています。
「お花屋さんは格好いい」と思えるまで
軽井沢町で生花店を営む両親のもとに生まれましたが、僕は小学生の頃から野球に打ち込む野球少年でしたので、当時は「お花屋さんは女の子が憧れる仕事」と思っていて、自分がなるつもりはありませんでした。
その思いがくつがえったのが、高校3年生のとき。ジャパンカップ※で父が内閣総理大臣賞を、母が農林水産大臣賞を受賞しました。その姿を見たのと、クリエイティブな現場で活躍する男性がたくさんいることを目の当たりにして、性別関係なく素直に「格好いい仕事だな」と思えました。
※「ジャパンカップ」は花キューピットが主催する、全国のフローリストがフラワーデザインの技術を競う競技会。
ちょうど進路に迷う時期でしたが、家業を継ぐことを意識しはじめて、まずは大学の商学部に進み、卒業後はフローリスト養成のための専門学校で1年間学びました。そこでの海外研修で、ヨーロッパの花文化と間近に接する機会がありました。とても刺激的で、父に頼んで、そのあとドイツへ留学させてもらいました。
ドイツは中世からのマイスター制度があって、フローリストは国家資格なんです。僕はマイスターの経営する店で研修させてもらいました。ドイツでは日常に花があふれていて、ホームパーティーに招かれたら花を持参するし、誕生日や記念日に花を贈ることが当たり前。男性が花束を持って颯爽と歩いている。それが格好いいんですよ。
「花一輪から、豊かな心を育む」
学生生活を送る間に、軽井沢店でブライダル・フラワースクール事業がはじまり、佐久店もオープンしました。そして軽井沢プリンスホテルの結婚式場に「Saclo Belfoglio(サクロ・ベルフォーリオ)」というブライダル専門サロンを出店するタイミングで帰国して、家業に入りました。
当時、軽井沢はすでに観光地化が進んでいて、たくさんの人が訪れるようになっていましたし、ブライダル部門は順調で、星野リゾートのリゾナーレ八ヶ岳に「ZiEL(ツィール)」も出店させていただきました。あとは中軽井沢に「LULU Grass(ルルグラス)」、ツルヤ御代田店に「Fluff(フラーフ)」もできました。
父から会社を継いだのが2018年で、そのすぐあとにコロナ禍がありました。冠婚葬祭の一切がなくなって、しんどい思いもしましたが、気づいたこともあります。不要不急の外出が自粛されるなか、花の自宅需要がものすごく増えたんです。
自分や家族のため、部屋に花を飾る。訪ねることはできないから、代わりに花を贈る。そんなふうに、誰かを思う気持ちを表現する手段のひとつに花があるのだなと再認識できたし、人を思う心がある限りフローリストはなくならない仕事なのかなと思えました。
そこからはやるしかないと気持ちを切り替えて、会社のあり方やスタッフの働き方を真剣に考えて、「花一輪から、豊かな心を育む」という企業理念を明文化しました。ブライダル部門を大切にしつつ、地元のお客さまともっと向き合いたいと考え、地域に密着したお店であるように、今も少しずつ変化しているところです。
技術のあるフローリストを目指して
2024年2月、技能グランプリ※のフラワー装飾競技に出場して、内閣総理大臣賞を受賞することができました。父は常に技術のあるフローリストを目指していましたし、自分も自然とそこを志してきました。
※技能グランプリは、厚生労働省や中央職業能力開発協会などが共催し、各職種の特級、1級、単一等級の技能検定に合格した技能士が技を競う全国大会。フラワー装飾技能士1級は厚生労働大臣が、2・3級は各都道府県知事が認定する国家資格。
なぜ資格を取るのか、なぜコンテストに出るのか、なぜ技術を高める必要があるのか。いろいろ取り組むなかで、僕なりに考えたのは、フローリストとして花の価値を高めていかなければいけないということでした。
花はそのまま花瓶に生けるだけでもきれいですが、フローリストが手を加えることで、もっと素敵だなと感じてもらえるように、プラスアルファの価値をクリエイトしなければいけない。料理と似ていて、素材がいくらおいしくても、野菜をそのまま食べるのと、手を加えてきれいに盛りつけていただくのでは、まったくちがいます。
花もきれいな素材はそろっていますが、それをどう組み合わせ、どう見せるかで、価値は無限に広がります。「豊かな心を育む」ためには、花で感動を与えることができるような技術を身につける必要があります。
今もお花屋さんが子どもたちの憧れの職業であればいいんですが、家に花が飾ってあったとか、おかあさんと花を生けたとか、そんな体験は大人になっても、きっと記憶に残りますし、花をきれいと思ったり、誰かを思う豊かな心が育ってほしい。フローリストは、そのお手伝いができる仕事だと思っています。