和菓子職人 田村康博さん

小岩井紬工房 小岩井良馬さん

WAZA COLLECTION スペシャルインタビュー

長年ものづくりの世界に携わってきた名匠に、
ものづくりの魅力やこだわりを語っていただくスペシャルインタビュー。
第2弾は、長野市の老舗菓子店「旬彩菓たむら」の代表であり、和菓子職人の田村康博さんです。
お菓子は、日本人の暮らしの中でどのような変遷をたどってきたのか。
歴史ある菓子店ならではの視点で、菓子づくりにかけてきた思いをお話いただきました。

創業は東京、縁あって長野の地へ

「旬彩菓たむら」の前身は、昭和5年の創業。和菓子職人だった私の父が、東京で店を開きました。その後、私が4つか5つの時に、東京から疎開してきたことをきっかけに、長野市で店を持つようになったのです。
とはいえ、戦時中はもちろん、終戦後もしばらくは、お菓子を作れるような状況ではありませんでした。生活のために、りんごを売ったり佃煮を売ったりしながら、いわゆる「闇市」で外国の人たちがお菓子を作っているのを、父も手伝っていたと記憶しています。
ようやく店を構えられるようになったのは、昭和34年のことです。人々の生活に、少しずつ暮らしを楽しむ余裕が生まれてきた頃ですね。最初は、長野市県町で和菓子を販売していました。
母が身体が弱かったこともあり、私がお店を手伝うのは当たり前のことだと思って、自然と菓子づくりを学んでいきました。朝早くから夕方までお店で働き、夜間は定時制の学校に通う毎日です。
当時は善光寺の門前に、多くの和菓子屋と新しいパン屋があったんですよ。その頃からの和菓子屋さんは、残念ながら今ではほとんど残っていません。
その後、「旬彩菓たむら」として、長野市伊勢宮に店を構えたのが、今から40年前の昭和52年のこと。当時は、今のようにコンビニがあるわけでもなく、お菓子屋さんでお菓子を買う時代。そして、どの家庭でも季節や行事ごとに集まって、お菓子を食べる習慣があった時代です。

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旬彩菓たむらの「伊勢宮まんじゅう」。
良質な北海道産小豆を使用し丁寧に炊き上げたあんこを、ふっくらと生地に包み、仕上げに焼印をあてます

菓子づくりの基本は、「食べる人に喜んでもらうこと」

父から店を受け継ぎ、店主として、また菓子職人として大切にしているのは「お客さんに喜んでもらう」ということ。今も、すべての基本はここにあります。
特に、和菓子は極めてシンプルなお菓子です。基本の材料は、小豆、砂糖、米粉、小麦粉。シンプルだからこそ、素材は厳選し、品質の良いものを使っています。
また、「旬彩菓たむら」のお菓子は、ほとんど機械を使いません。機械化すると、たくさんのお菓子を作ることはできますが、すべてが均質な同じ味になってしまうためです。
きちんと素材を選ぶ、きちんと手でつくる、きちんと手で包装する。この流れを大切にしています。接客も含めて、一つひとつの工程を厳しく守っているのは、お客さんに喜んでほしい、この一心からです。
「うれしい」「楽しい」という気持ちをもたらすのがお菓子だからこそ、つくり手として「これくらいでいい」という甘えは許されないと思っています。

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上:技能検定1級の課題でもある「はさみ菊」
中・下:初代社長から受け継がれた木型。今では木型をつくる職人さんも少なくなっているといいます

季節を感じるのが、菓子の醍醐味

お正月からはじまって、節分、ひなまつり、五月の節句、お盆にお月見。そして今ではハロウィンにクリスマス。時代によって楽しみ方や考え方は変わってきましたが、一年を通じて、季節や行事に寄り添うのがお菓子の醍醐味です。
特に和菓子は、季節の「旬」ということを大切にします。父から受け継いだ木型を今でも使いますが、木型の模様は、鮎や金魚、椿の葉っぱなど、『万葉集』の中に出てくる季節の要素が表現されているんですよ。
こういった道具をどう活かすか、菓子づくりの技術をどれだけ磨くか、ということも大切ですが、和菓子を作るには、普段から草花を眺めて、季節を感じる心のあり方が大切だと思っています。
そうして作られた季節のお菓子を通じて、家族や親戚、友人同士、また知らない人同士でも会話やコミュニケーションが生まれていく。つくり手にとっても、これ以上の喜びはないのではないでしょうか。

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田村康博(たむら やすひろ)
東京都生まれ。長野県県町の「たむら菓子店」を、昭和52(1977)年に同市安茂里伊勢宮に移転。移転後は、和菓子と同時に洋菓子の販売も行う。平成12(2000)年「有限会社 旬彩菓たむら」設立と同時に 代表取締役に就任。現在に至る。

旬彩菓たむら 本店

住所:長野県長野市伊勢宮1-18-14
電話:026-228-9235

季節の和菓子・洋菓子の製造、販売

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